会長挨拶

 2020年2月21日に開催された一般社団法人日本大ダム会議定時社員総会およびその後の理事会において、柳川前会長の後任として代表理事に選任され、第14代日本大ダム会議の会長を務めさせていただくこととなりました。近年ダムをとりまく環境は自然環境のみならず社会的な位置づけにおいても大きく変化しており、私のような経験も少ない者が浅学菲才も顧みず、歴史と伝統のある本会議の運営にかかわることに大変な名誉に感じると共に身の引き締まる思いがいたします。

電源開発会社に入社した当初はダム設計班に係わりました。その後水力のみならず、火力、原子力等の土木に関わってきましたが、ダムで培われてきた技術が現代の技術の基盤であるという事を感じています。原子力発電所基礎の岩盤分類や岩盤試験、地盤や土質材料を対象とする有限要素法の地震応答解析あるいは原子炉建屋基礎の掘削技術や基礎コンクリート打設前の地質の記録、岩盤清掃等はすべてダムで培われた技術が応用されています。また海水冷却水取水路の損失計算等は水力発電所の損失計算手法が適用されています。

私は既設ダムの維持管理やODAダム事業等には係わりはしましたが、本会諸先輩、諸兄のダムに関する深い経験、学識や洞察力と比較するべくもありません。粉骨砕身、全力で取り組む所存でございますので、ご支援とご協力を賜るようよろしくお願いいたします。

さて、2018年の西日本豪雨、2019年の台風19号をはじめ、近年わが国は毎年のように豪雨災害に見舞われ、私達に大きな悲しみをもたらしています。現時点においても不自由な暮らしをされている方が多数おられ、衷心よりお見舞いを申し上げます。

気象現象の激甚化は私たちの弧状列島にも確実に作用し始めていて、昨年の台風19号では河川堤防が140か所で決壊する等これまでとは被害の様相が変わってきているようです。一方、この時の八ッ場ダムの活躍は会員諸氏の中には知らない人はいないでしょう。同ダムが数奇な運命をたどりながら、多くの先達や関係者の努力の末に竣工を迎え試験湛水期間中に立派にその機能を果たし、国民に評価する声が大きいということは、ダムが近代社会において極めて重要な基盤インフラであることを改めて示したものでありましょう。電力各社が戦後復興期に建設した多くのダムも重要インフラとして純国産の再生可能エネルギーを供給し続け、国民に受け入れられてきました。水力発電は電力エネルギー供給の8~9%を占めますが、天候の影響を受けることが少なく安定的な電力供給を行っています。変動型電源である太陽光や風力が増えるに従い、電力需給調整における水力の役割も大きくなると予想されています。

前回東京オリンピックが開催された1964年は記録的な渇水で深刻な水不足だったそうです。奥多摩湖や村山貯水池などでは湖底が露出したとの記事があり、東京ではオリンピック直前までに最大50%カットの給水制限が行われたとの事。今年はこれまでのところ記録的な暖冬で、大きなダムが多数存在する利根川や信濃川、阿賀野川等の源流域山岳地帯での降雪量もあまり多くない様子です。しかしながら、1964年時に比べて東京に水を供給するダムの貯水容量は数倍に増えており、ここでも重要インフラとしてのダムの価値が高くなっています。今後、流域の安全の確保、再生可能エネルギーの提供、灌漑用水や上水道、工業用水の供給などダムの価値はますます高く評価されるようになるのではないでしょうか。

こうした背景のもと、既設利水ダムを活用して流域の安全を確保するための準備も進められています。最新の気象予測技術や流出解析などを駆使した効率的な貯水池水位運用等、既設設備で実施可能なことについて進められることになると思いますが、前広には既設のダムがより高い機能を発揮できるように洪水吐や放流設備の増改良、ダム嵩上げなど既設設備の改造も大いに議論され事業として進められることに期待したいと思います。

 

わが国の大ダムは建設後60年近くを経たものも多く、維持管理が重要です。堆砂に関しては1997年の河川法改正では「河川環境の整備と保全」が目標に加えられ、河川の「総合土砂管理」が進められています。ダム地点での土砂移動の連続性を改善するなど、河川・流域の環境の改善が求められており、総合土砂管理によってダムの持続性が高められれば、環境と治水と利水の「三方良し」が期待されます。すでにいくつかの取り組みが始まっており今後河川管理者、ダム設置者および地域が協同して「総合土砂管理」が進むことが期待されます。

また切迫性の高い巨大地震も課題です。多くのダムは震度法に基づくダム設計基準に則り計画・設計されており、耐震裕度を有していると考えられますが、大きな地震動を受けた場合の堤体内部や基礎岩盤部、あるいはゲート等付帯構造物の変状予測などについて多くの研究がなされています。人工衛星、UAV、レーザあるいは微動計測等を活用して常時モニタリングよる状態監視を行い、地震前後の変位や振動特性の変化等からその影響を確認し必要な措置を的確・迅速に行うことができるように地道な努力が続けられています。こうしたビッグデータの解析にはAIが有効なツールとなる可能性がありダムを取り巻く各種の研究開発の動向も注視してゆきたいと考えています。

 

日本大ダム会議が参加している国際大ダム会議の年次例会や3年毎の大会では「技術革新」と「持続可能」を両軸とした技術委員会で日本の優秀な技術者たちが、諸外国の技術者と共に水理、構造、材料、数値解析、地質、水資源、土砂管理、河川環境、気候変動、耐震性能、モニタリング、リスク管理、流域運営など様々なテーマで熱い議論を交しています。また会場に設けるわが国ダム技術を紹介する技術展示ブースは関係者の努力の成果として毎回多くの見学者を集め評判の良い展示ブースの一つとなっています。

国内では近年ダムツーリズムの人気も高く日本大ダム会議が資料提供に参画した「ダムの歩き方」は初版売り切れで重版との事ですし、最近封切られた長島ダムをロケ地の一つとした土木技術者が主人公の劇映画の最終テロップには「協力:日本大ダム会議」の文字がありました。こうした活動もダムの意義を人々に理解して頂く良いツールでありこうした活動も継続して行きたいと考えています。

 

我が国のダムは高経年化に伴ういろいろな課題を持ちつつも「現在と将来における役割」も大きいものがあると思います。先人のダム建設の努力の恩恵に浴していた時代から、適切な維持管理と再開発・再編等の時代へと移ってゆくようです。また、ダムの高経年化と相まって熟達したダム技術者の高齢化が進展しており、ダム技術の継承は当会に委ねられた大きな課題であると思います。

国土交通省、農林水産省、経済産業省や水資源機構、地方自治体をはじめとする関係行政機関、各電力会社等のダム管理者、建設会社や技術コンサルタント、流域関係者、関係団体等多くの関係者、柳川前会長、宮本副会長、森北副会長、多田副会長はじめとする理事各位、会員各位のご指導、ご支援、ご協力を仰ぎながら努力してゆきたいと考えています。

どうぞよろしくお願いいたします。

 

会長 杉山弘泰

 

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